株式会社日本設計様Customer Success Interview

出会い・創る・学びの場

EXOffice

株式会社日本設計 様

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日本設計は2023年1月、本社を虎ノ門ヒルズ森タワーに移転しました。建物自体も日本設計が設計したもので、オフィス階最上部の34階・35階に新オフィスを構えました。

エレベータホールを降りて総合受付に向かうと、ロビー空間が拡がり、東京タワーが目前に迫る圧倒的な眺望が現れ、視線を移すと木製の内階段が輝いて見えます。賃貸オフィスで上下階を結ぶ内階段を設けるには様々な規制がありデザインが難しいのですが、存在感があります。

「建築家の自宅」は、建築家の思考や経験が凝縮した建物として、いつの時代も注目が集まります。それと同様、日本を代表する総合設計事務所がデザインした新オフィスには、学ぶべき点が多々あります。

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社内外の交流の場「みんなの広場」

日本設計の「新しい働き方」

新オフィスは、働き方の再定義から始まりました。個性の源泉もここに見いだすことができます。
コロナ禍を経て、オフィスを巡る状況は一変しました。働く時間と場所の選択肢が拡がり、オフィスワーカーが分散して働くようになり、これまで全員毎日出社していたセンターオフィスは見直しが迫られています。オフィスを計画する場合、自社の働き方を見直すことが求められています。

日本設計の「新しい働き方」は、大きく二つの軸からなります。
一つは、働く時間や場所を自由に選択できる働き方です。そのため、共有フレックスタイム制(5~22時)、本社/自宅/サテライトなど複数拠点の利用、フリーアドレス制などを採用しています。

もう一つは、リアルとバーチャルで繋がりを生む働き方です。
オフィスではリアルなコミュニケーションの濃密化を図り、同時にDXによるオンラインコミュニケーションを進めるものです。
ここで登場するのが「チーム」です。チームで働くことを加速するオフィス空間・デジタル環境を用意することが意図されており、このチームワークが他とは異なる日本設計の働き方の特徴です。

このように、働き方を「働く時間と場所」と「リアルとバーチャル」という二つの軸からシンプルに整理することは、どの会社でも参考になります。

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日本設計の「新しい働き方」

新オフィス計画 都市の中に身をおく

そして、オフィス計画は、この「新しい働き方」を実践する拠点として進められます。

まず、新オフィスを「出会い」の場、「創る(共創)」場、「学び」の場と位置づけます。
分散していても仕事ができるのに、なぜセンターオフィスに集まるのか? その目的が世界中で問われており、多くの会社が「出会い」や「創る」といった意義に改めて注目していますが、「学び」の場という位置づけは、他にあまり聞いたことがありません。

デザインのコンセプトは、全方位開けた2層の空間を、“みち”を軸とした一筆書きの連続空間とするというものです。そこで内階段を南と北に設け、ワーカーが自由に周回できるようになっています。∞(無限大)に伸びる”みち”の路傍には様々な空間が配され、沢山の出会いが生まれます。

また、ここには「都市を感じながら都市をつくること」が意図されています。
日本設計は超高層建築のパイオニアであり、新オフィスから自ら設計した多くの建築作品を見下ろすことができます。刻々と変化する都市に身を置き、都市を創造するという大きな循環のな中で仕事できるのは贅沢なことです。

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新オフィス計画

新オフィス計画 TDW

もう一つ、注目すべきは「TDW(Team-Driven Workplace)」です。
日本設計の組織には少人数、部門、全社、プロジェクトといった4種類のチームがあり、それぞれのチームの仕事をドライブするために最適なワークスペースを用意するという考え方がTDWです。

その象徴的なスペースとして計画されたのが「プロジェクトベース」と呼ばれるスペースで、ある特定の「チーム」に所定の場所(チームアドレススペース)を専有してもらい、チームワーキングに合わせてレイアウト変更が自由にできるようにしています。

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プロジェクトベースの専有空間

似たような概念に「ABW(Activity Based Working)」があります。ABWとは働く相手・時間・場所をワーカー自ら選択するオランダ発の働き方であり、オフィスの新しいあり方です。仕事内容を高集中、コーワーク、知識共有など10程度に分類し、それぞれの仕事を最適化させる空間を用意します。

TDWは、ABWのように人数や作業内容に対して一対一の什器や空間を作るのではなく、多様な環境やカスタマイズできる状況を用意し、チームが最適な環境を選択したり、チーム自身が環境自体を最適化しようという試みです。

また、ABWは、個人の成果が重視される傾向にある欧米の就労環境を背景に発達した概念であり、チームを重視するという考え方は、技術者集団として産声を上げた日本設計創立のDNAを継承した発想でもあります。設計事務所の仕事はチームワークが基本であり、そのような働き方と組織構造を反映させたユニーク、かつ新しい手法です。

ABWはよく知られた働き方の考え方で、多くの会社が新オフィスを計画する際、ABWの採用を検討しています。しかし、個々人の時間マネジメントが前提となっていて、導入にはそれなりの準備が必要です。
それに対して、TDWは日本設計固有の組織論を背景にした独自の解といえるもので、それが無理のない働き方を実現させようとしています。
ABWなどを参考にしながらも、各社固有の働き方を内発的に見いだすTDWにみられる方法論を取り入れることは大変重要と感じます。

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TDW(プロジェクトベース)とABW

思考と実践

南北2つある内階段の上下4つの空間は、新オフィスを象徴する空間になっています。
「みんなの広場」は出会いの場。「think++Museum」「think++Library」「think++Lab」は「創る」場であり、「学ぶ」場です。ちなみに「think++」とは、日本設計の企業理念です。
その中でも「ラボ(Lab)」は、設計事務所特有のもので、新しい技術やアイデアについて試行と実践を繰り返すラボ空間になっています。

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知を蓄積する空間「think++Lab」

例えば、みんなの広場にある内階段では、オフィス施工時に鉄骨階段を人が歩くことによる振動実験が行われました。

また、みんなの広場の内階段を上っていくと「エネルギー・スポット」があります。これは、空調システムをオブジェ化したもので、周囲にはフリースペースが設けられています。
放射空調と対流空調の質の違いを学ぶ、エネルギーマネージメントにおける「足るを知る」といった狙いが込められているとのことですが、「エネルギー・スポット」の名の通り、新オフィスにおける一種の「ギミック」として、特別な熱量を発しています。

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「試行と実践」の例

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エネルギー・スポット

人の個性×環境の個性

もう一つ、新オフィスで特筆すべきが「環境の個性」です。
パーソナル空調のように人の好みや状況、つまり「人の個性」に合わせた環境づくりを行う潮流があります。一方、言われてみれば当たり前なのですが、環境側にも個性があり、この二つをぶつけてオフィス環境を創造していくという考え方です。

南側は日当たりが良く、西側は西日が眩しいといった自然条件は多くの人に共有されていますが、それに加えて新オフィスでは、眺望から得られる場所性が考慮されています。新オフィスの眼下には六本木、霞ヶ関、日本橋、汐留など個性的なエリアが各方面に拡がり、その眺望からオフィス内も新たな場所性が生まれるというものです。

このような幅広い考え方で環境を捉えて「パッシブな環境の個性」と位置づけます。これに環境コントロールによる「アクティブな環境の個性」を掛け合わせることで、環境選択性の高いオフィスを実現していきます。

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人の個性×環境の個性

オフィスプレートの日照時間分布の調査結果をもとに、35階の南東角には、植物の生育しやすさに配慮して植栽を集約配置した「バイオフィリック・エリア」が配置されています。

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バイオフィリック・エリア

環境DX

新オフィスには、私が所属するWHEREが提供する「EXOffice」が採用されています。ワーカーが分散して見通しが悪くなったことから見える化(可視化)が要請されていますが、EXOfficeはワーカーの位置情報を取得して見える化を実現します。
ワーカーの位置情報をはじめ、オフィスでは様々なデータがセンシングされるようになりつつあります。デジタル空間上には、リアルなオフィスの写像として、もう一つデジタルのオフィスが生まれています。これはオフィスの「デジタルツイン」といわれます。

この点でも日本設計の新オフィスは、「環境DX」という先進的な取り組みを進めています。「環境DX」とは、次世代の環境マネジメントシステムで、デジタルデータやシミュレーションによって「人の個性」と「環境の個性」を融合させるものです。

始まったばかりのデジタルツイン領域で、難しいといわれるのが「センシング」です。リアルな空間をデジタル空間に反映するには膨大な情報収集が必要になり、放っておくと膨大な手間とコストがかかります。そのため、必要な情報を適切な頻度で取得すること、つまり合理的なセンシングが重要になりますが、その手法はまだ確立されていません。

「環境DX」は、新オフィスを舞台にその難題に取り組んでいます。
まず、ビル取得データ、自前のセンシングデータ、アンケート調査結果など可能な限り多くのデータを横断的に収集し、それぞれのデータとマネジメントシステムの関係を統計的に解明しつつあります。

このデータ・エンジニアリングのプロセスを経て、マッチングやレコメンド、シミュレーションといった仕組みを入れた次世代の環境マネジメントシステムが立ち上がっていくものと想定されます。この試み自体も「試行と実践」といえます。

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環境DXの推進

デザインプロセスこそ学ぶべき

オフィス空間は画一的になりがちですが、日本設計の新オフィスは強い個性を放っていました。設計事務所に空間や環境を操る能力が備わっているというだけでなく、そこには日本設計のミッションやビジョンが反映されています。

それ以上に、オフィスづくりのプロセスに学ぶべき点が多いと感じます。
現在、どの会社も働き方の見直しは避けて通れませんが、日本設計では、「チーム」という組織構造を核にして「時間と場所」「リアルとバーチャル」の二軸から改めて「働き方」を定義しています。
その上で「センターオフィス」を場としての位置づけを行い、具体的な「オフィス計画」に落とし込んでいく、という実直なプロセスは、あらゆる会社が参考にすべき点です。

その中で突出した空間として「試行と実践」の「think++Lab」や「みんなの広場」があり、「環境DX」の挑戦が始まっています。

今後もしばらく大規模オフィスが首都圏を中心に次々と投下されていきますが、そこには日本設計の新オフィスが一石を投じることでしょう。